出て来て云った。皆誰も疲れてしまって最後にほッと洩した言葉がそうだった。母は膝の上で丹念に会葬名簿を指で延ばしてから、それを額におし頂いた。
「あたしはこれから長生きをして、お父さんに見たもの皆報らせるんですよ。うんとあたしは、長生きしなくちゃ――」
ぼそぼそと独り言のようにそう呟く母の顔は、このときもどういうものか愉しそうだった。頬はもの腰の弱りとは違い、まだ醒めぬ興奮で色艶もぼっと良かった。
「そうよ。それが一番いいわ。」と幸子も笑いながら母に云った。
運命の描いた絶頂で戯れているような、母子二人の不思議なあきらめの良さに、これはもう、悲しみを越えた軽やかな美しさになっていると、矢代は今さら二人の顔をあらためて見るのだった。しかし、まだ彼自身はあきらめきれず、底冷えのした悲しさに手枕から頭も上らなかった。
幸子は母と暫く会葬者たちの噂をしていてから、その途中で矢代の方を向いて訊ねた。
「兄さん告別式のとき玄関で一寸物を云った方があったでしょう。あの方どなた。若い女の方と一緒にいらした方よ。」
「あれはパリのときの友達だ。」
矢代は今の塩野と千鶴子のことに関しては触れられたく
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