さが、さきから矢代には分っていた。互いに慄える手を探り合って握りつつも、どこかに身の近づけぬもののある画廊ながら、矢代は、もしこれで千鶴子にいのちを失う踏絵のような場合が来れば、あの、細川ガラシヤの死の苦痛を軽めで死んだ小笠原少斎のように、自分もともに千鶴子と死ぬかもしれないと思った。
「このかた、田辺侯爵。」
 とまた暫くしてから塩野は矢代の傍へ来て云った。一度は会うことを約束されていた人が、いよいよ初めて顕れた緊張の仕方で矢代は礼をした。西洋での侯爵の日常をおよそ聞き知っている矢代だったが、想像とは違い侯爵は無表情なのどかな丸顔で、ポケットから手を出し黙って無造作な会釈をしただけだった。
 田辺侯爵にはどこといって目立った所はなかった。しかしやはりその無表情な、一見平凡に見えるところに、油断の出来ぬ人を素直に眺め感じる静物のような品と、城主の位とを具えていた。こういう垢脱けのした人物は一番恐るべき人で、また気兼ねのない伸びやかさを人に与えるものだった。
「どうも疲れた。いっぱいお茶を飲みたいが、一寸行くかな。」
 塩野は主人側の遠慮のある表情で、脱け出す機会を覗いながら、それでもま
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