しようか。」
「お昼?」千鶴子は鏡の中から振り返って、「まア嬉しいわ。お待ちしてましてよ。どんな御馳走かしら。」
駅へ迎いに行くときから明日の昼の招待について考えていたこととて、今になって突然思いついた冗談ではなかったから、材料もある程度明日の午前中に揃う手筈もあった。
「何しろ雪の中の手料理ですからね。東京で作ったのとは違うが、チロルの山小屋のときよりは少しはましかもしれないな。」
「あのときは何んだったかしら。スープとお馬鈴薯と、ソセージ、ね、たしかそうだったわ。」
二人が顔を見合せて笑っている所へ、夕食の仕度が整い料理が出て来た。まだ湯から上って来ない槙三のことを矢代が訊ねると、きっと湯気でも見て何か考え事をしているのだろうと千鶴子は笑った。そこへのっそり入って来た槙三は窓よりの廊下の椅子にかけ山を眺めた。彼は常住坐臥あまり人間のことなど考えていそうでもなく、自然の動きと数の組み合せだけ考えつづけているためか、惑いのない動かぬ独特な微笑を湛えていた。純潔な赤い下唇が少し突き出ていて、大きく澄んだ眼は美しく、自分の気持ちの困惑など少しも人に見せそうもない、おっとり物云わぬ態度を
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