した腕や、東北の海沿いの白い路に熟れ連っていた無花果や、上越の茂みの下を流れ潜る水の色などがしきりに泛んだ。初めは何気なく彼はそんな景色を思い泛べていたのだったが、いつの間にか、西洋の風景に対抗させたい日本の中の美しい風景を漸次に撰び出し、組み整えているのだった。そして、まだまだ自分は日本の中に深く分け入って美しい光景を見届けて来なければ、心中やみがたく納りがたいと思い、あれこれと過ぎた日に見た、山川の美しさを引き出そうと努めた。が、ふとその緊張がゆるむ後からまた強くチロルの峯峯、南仏の海の色、イタリアの湖と、繰り代り色めき立って割り込んで来る。始末は頭の中のことだけに、矢代の意志のままには片付かなかった。
「僕はそのうちノートル・ダムばかり撮ったのを纏めて、個展をやろうと思ってるんだが、ひとつあなたも撰んでもらいたいな。」と塩野は云った。
「あなたのあれは美しい。」
矢代はそう云って塩野に賛成した。そして、人間が生活をするのは食い生きるためにちがいないとしても、意識するしないに係らず、人類共通の念願として、所詮は誰も一挙手、一投足のするところ美を造り出すために生活しているのだと思う
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