がまったく活きている以上の実覚に充ちた美しさだった。
 その日一日、矢代はその睡眠中の出来事を、真実なことだと思って疑うことが出来なかった。それもそのことを千鶴子に伝えてしまっては、忽ち嘘のこととされてしまうに定っている迷惑となるのも、およそ分ったことだった。あの何ものにも代えがたい、一刻千金のいのちの感覚を、すべて夢だとされてはたまらなかった。しかし、まだこのままいつまでも黙っているなら、矢代にとって、千鶴子はこの世に二人いることにもなった。そう云えばたしかに睡眠中に顕れた千鶴子は、あれこそカソリックに少しも冒されてはいない緊迫した、真の日本人だったと頷けるふしがあった。
「あれだ。あの千鶴子の方がはるかに美しかった。」
 と矢代はひとり呟き、またもう二度とめぐり会うことも出来ぬ寂しさに、街の中をひとり方向も定めず歩いた。しかし、自分の真の花嫁と会うことの出来た嬉しさは、どの街へ出ていっても変らなかった。ヨーロッパをともに廻った千鶴子のことをふと頭に泛べても、あれは嘘の千鶴子だったと思うことが、だんだんこのときから矢代に強くなった。もし自分の子供を生んでくれるものがあるなら、あの七夕
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