子も所在なさげに一緒に云って笑った。矢代は気軽くなったついでに、東京へ着いたその夜、千鶴子の家の前まで夢中で行ったことをつい話しそうになった。が、やはり、まだそれを云うべき自然なときにはなっていないと思い、彼は云い止まるのだった。
 料亭を出てから省線の駅まで四人は歩いた。ゆるく下りになった暗い枯葉路の両側の大樹の下を、塩野と由吉とが話しながら先に立ち、少し遅れて矢代と千鶴子とが歩いていった。
 顔の見えない千鶴子の襟もとから香料の匂いが掠め流れた。モンパルナスで別れた前夜、雨あがりの夜道を歩いているときにも匂った同じ香だった。
「あたしの家へも一度お遊びにいらして下さらない。汚いところですけれど。」
 と千鶴子は、もう興奮のなくなった声で云ってから、二三日前の夜、まだ見たこともない矢代の母からひどく叱られた夢を見て、恐くてぶるぶる夢の中で慄えたと話した。矢代は母が千鶴子を叱っているところを想像し、そんなところも母にはたしかにあるかもしれないと思い、また今の千鶴子がカソリックのままだと、法華を信じている昔堅気の武士の娘の気性を持つ母との、折れ合えるところはどこだろうかと一寸彼は考え、い
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