士族であり矢代家が平民であるという、階級的な観点から見た場合に起る、ある無益有害な観念を無くさせる上に都合が良かった。それのみか、他の地と違い何より保守を尊ぶ気風を持った土地の滝川家としては旧士族を誇りとしている以上、当然に仰がねばならぬ旧主最上家の位置に、矢代家もまた同様位置する理由により、自家の士族も矢代家の平民に対しては、ある観念が逆に起り得べき立場にもあった。
「それじゃ矢代家、どうして士族じゃありませんの。」
 と矢代の母が良人に不平を洩した失敗のときも、父としては、妻の家が旧主最上家と共に滅ぶべき所を、浮き上った一時期の明るさに対して、それを暗さとして指摘し得られる場合だったが、恐らく子の矢代の身の上を思い、それも父は差しひかえたのにちがいない。
 すべてこれらの事は、この二家にとっては偶然とはいえ、偶然には神秘という契機をもった必然性が常にある。――このように感じたのは、恐らく子の矢代よりも、黙黙としてトンネルを穿つことに専心した彼の父の労苦の中から見出すことが出来るかもしれない。


 東京へ矢代の帰ったのはもう十月を越していた。彼はその翌朝眼を醒してからすぐ庭へ出てみ
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