讐に似た淡い憂いもあるのだった。
「そんならどうしてここの家、士族じゃありませんの。」
 と矢代の母が父に、訊ね返した不服そうな言葉を、何か二人の気ばだった表情の間から、矢代は思い出すこともある。表面静に見えながら気象の強い母は、家系のことでは負け目を感じるのが不快らしく、何より武士道を重んじる心の姿勢は、年とともに母の中から強く感じ、そのために矢代は、父と母との間に立って苦しんだ日も、母の実家へ来る度びに思い起す記憶である。
 矢代が歴史に興味を感じ始めたのは、つまりはこの父母の家系の相違がもとだったが、平民の父が妻の実家の士族の遺風を尊びつつ、秘かに自分の平民をも誇るところは、他にまた特別の理由のあるのが後に分った。
 母の実家の滝川家の先祖は、士族とはいえ徳川系の譜代大名の士族ではなく、その以前の最上義光の家臣であった。最上家が上杉謙信の枝城の村上に滅ぼされて、その家臣の滝川家も野に隠れているとき、徳川時代となった。そして、土地を鎮める手段として、滝川家は新しい城主に召し抱えの身となって再び立った関係上、それ以来この地には徳川譜代の士族と最上時代の旧士族との土に対する伝統の古さを
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