から、矢代も迂濶な返事でこの夜の気持ちを壊したくはなかった。
「しかし、面白かっただろう。良いことを君はしたよ。」
「僕はフランス語がよく出来ないからね。僕のは出来ぬ面白さだ。」
矢代は出発前に自分のフランス語の貧弱さを素直に悔い、また知人たちもひそかに彼のその労苦を憐れんでいるのを知っていたから、田村の得意なフランス語に華を与えた譲歩も、酒の場の挨拶としてはしなければならなかった。
「とにかく、フランス語の教養がなけれやね。フランスへ行ったって面白くないさ。」
こう矢代に面と向って云った正直者の知人のいたのも彼は思い出した。そして、自分の外遊に関しては、定めし嘲笑の様子が見えぬ部面で起ったことだろうと想像もしたが、それが以後、いちいちそれに満足を与えるような結果となって来ている自分の胸中を、彼はどんな表情で示して良いか、苦しむのだった。
「僕は君らの一番いやがる人間になっているのだよ、もう訊いてくれたって駄目だよ。」
と実は彼はこんなに皆に云いたかった。しかし、こういう云い方など、もう自分を説明する何んの役にも立たぬと知り、彼は田村の盃に黙って酒を注ぐ歎きもまた感じた。
「僕は
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