蠅が群り立ち、電灯の周囲を飛んでいるのが、先ずひと目で受けたヨーロッパとは違った間延びのした東洋の表情だった。矢代は検査の始まるまで広い待合室を眺めて立っていた。一緒の汽車で来た外人たちは睡眠の不足で元気のない顔つきだった。それにしてもこの汚い包みを抱え蠅の中でい眠っている群衆が地球の大半を埋めているのだと思うと、それを見て来た矢代は、今さら世界の上に蠅につき纏われた宿命の人種の多いのに驚いた。それは東洋のほとんど皆の国がそうだった。
 この皆の国から蠅を追い払う努力だけでも、人人のこれからの役目は大変な力が要ると矢代は思った。
「私は警察の者ですが、今夜はこれからどうされます。」
 と、私服の眼鏡をかけた背の高い日本人が、矢代に今井と書いた名刺を出して訊ねた。矢代は別にどこへ行く考えもなく汽車を待つだけと答えた。
「じゃ、まだ八時間もありますよ。何んなら宿屋をお世話しますから、そこで休んで行かれたらどうです。まだこれからならひと眠り出来ますよ。」
 矢代はこの特高課の今井の職責上の目的のことなど今は考えてはいられなかった。それよりも、話しかけてくれる日本人を見るとただ誰でも懐しくなり
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