ものか、写真機を停っているバスや千鶴子の方へ向けていた。荷物も飛行場行のバスの底に入れられてしまったとき、久慈は千鶴子に云った。
「もうパリはこれで見おさめだから、よく見ときなさいよ。ここを発つときは誰だって泣くんだそうだが、君もう泣いちゃったの?」
「あたし? あたしは泣かないわ。カソリックなんですもの。」
千鶴子は暗に昨夜の潔白さを示したい反抗の語調で軽く笑い、そう云ってからふと傍の真紀子に気がねの様子で振り返ると、
「マルセーユへ皆さんと着いたの昨日のようですのに、早いものですことね。でも、ほんとうに、あたしもうこれでここ見られないのかしら。」
とあたりの街街を見廻した。
「それや、君の心がけ次第さ。」
と久慈はまた赦さずひと刺し千鶴子を刺すのだった。
「じゃ、あたし、もう一度来るわ。一度来てしまうと、何んでもなく来れるように思えるのね。神戸で船の梯子を登れば、もうそれでいいんですもの。」
それはそうだというように真紀子も久慈も笑ったが、真紀子だけは帰りたそうに空を眺めていてから、今日は帰りにスペイン行のコースを験べて来ましょうと久慈にせがんだ。三人の傍へ塩野が来ると千鶴
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