く汽車から降りた外人たちは、それぞれプラットから消えてしまい汽車のどの室も空虚になったが、しかし、一行だけは塊ったままいつまでもしょんぼりとして動かなかった。
「どうするんかね。こんなことしていて。」と久慈は云った。
「迎いに来るというから、待っているんだよ。」と医者が答えた。
「しかし、迎いに来るかどうか、返事が来てないんだから、分らないじゃないか。日本じゃないよ。ここはパリだよ。」
とまた他の一人が云った。
なるほどここは日本じゃないと、はッと眼が醒めたようにまた一同の顔色が変ったが、しかし、宿の在所がどこだかそれが誰にも分らなかった。そうかと云って、このままいつまでもプラットに突っ立っているわけにもいかなかった。そこで、赤帽に荷物だけ持たせて先ず待合室の方へ出ていった。しかし、待合室でもまた一同は誰がどこから来るのか分らぬままに、雲を掴むような気持でぼんやり待つのであった。気附かぬ間に夜になっているばかりでない。耳が聾者のようにびいんと鳴って聞えなくなっているうえに空腹が迫って来た。
「いったい、その宿屋は外国人の宿屋かね。日本人の宿屋かね。」と久慈が訊ねた。
「日本人のぼた
前へ
次へ
全1170ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング