の男は星を観測するときに、その前に食った食物が野菜だったか、肉だったかという質の違いで、もう観測に現れた数字の結果が同じでないと云ってたことがあるね。食い物でもう違って来るというんだから、天文学にも区別あるかもしれんぞ。」
 と久慈は自分に不利な云い方を我知らずに口走って笑った。矢代は自分ひとりの落ち込んでゆく淋しさから延び上り、今は当面の話題にとり縋っていたかったので、強いて勇気を取り戻そうとして云った。
「そんなら、科学は誤謬を造るのが目的だというようなものじゃないか。あ、そうだ。さっき、東野さんがドームにいたんだが、人民戦線の駆り出しが通ったときに、円周率は三コンマの一四じゃ割り切れんぞ、用心をせいと呶鳴っていたな。」
 そう云いつつ矢代は、東野のそのときの言葉の意味を初めて了解するのだった。しかし、こんな会話も争いを起さぬ工夫に捻じれ気味で、辷りの悪さを感じたものか千鶴子は、
「あら、あんな所で踊っているわ。今日は踊りを初めて見てよ。淋しそうな踊りだこと。」
 と云って皆の視線をある街角の鋪道に向けた。そのあたりはもう人気のない空虚の街だった。通る人もなければ振り向く者もない一
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