ことは人間に出来得られることでないと、今もなお思い通していることに変りはなかった。
「この中田さんは明日ドイツへ行かれるんだが、あなたはいつです。」
と塩野はまた矢代に訊ねた。中田はある大学の政治学の教授で、特にこのパリ祭を見たくてロンドンから渡って来たのである。この人は闊達明朗な笑顔のうちにも、学生時代からまだ曲って来たこともない素朴剛健な風貌があったので、定めし今日の左翼のこの旺盛さと、右翼の民族意識との対立は、学問として好個の見学材料である以上に、悩ましい問題も解き難く頭を襲っているに相違ないと矢代には感じられた。しかし、見渡したところ、それは中田ばかりとは限らなかった。ここにいるもののすべては云うに及ばず、恐らく世界の知識階級のものたちにとって、この日ほど、注目すべき日は近来になかっただろう。それも、どんなことが起ったところで、ニュースは言葉を濁し、明白な報知をしないに定っているのである。
「僕ももうじきベルリンへ行こうと思ってます。また向うでお会いしましよう。」
と矢代は云って中田のどことなく困惑している笑顔を眺めた。皆が一番衝突の激しいのはバスティユであろうとか、サンゼ
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