かかった。
ネクタイもある店で久慈と取り合いでとうとう買い占めた柄のを締めた。そして矢代はホテルを出たが、出るとき鍵さしに差さった日本からの手紙を見た。それは長らく海岸で寝ている妹からのものだった。手紙にはいろいろのことが病人らしく書いてある中に、次ぎのようなことがあった。
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――いつかお報せしたかと思いますが、お父さまも気がこのごろお弱くなりましたのか、お金貸しもあまりひどいことをなさらなくなりました。お伊勢参りをお母さんとなさったとき、偶然に郷里の消防団と一緒になって驚かれたことがありましたが、それ以来急にお年をとられたように思います。郷里へも先日初めて帰られ、御先祖のお墓参りをされました。わたくしは東京で生れたせいか、自分の故郷がどこだか分りません。お兄さんはパリに行かれ、東京を故郷と思われましたよし、まことに自分のことのように嬉しく思いました。これでわたくしの家では、ただ一人わたくしだけが、ふらふらしている人間かと思いますと、悲しゅうございます。それでも、もうお帰りになるのかと思いますと、それまでに病気もよくなっていたいと、朝夕心こめてお待ちしており
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