かるのだよ。それがないのだなア。」
と久慈はぼんやりと電灯の光りを仰いで云った。
「愛とか智とかあるじゃないか。あんまり沢山ありすぎて、みんな馬鹿になってるのだよ。こんなにあっちゃまごまごして、何を拾ったらいいのか知らんのさ。遣欧使の堕落だよ。」
「いや、違う、一番肝腎のものがたった一つないのだ。それでみんな屑拾いになったんだ。電気を見てるとどうもそう思う。だいいち、これは物理学でもなければ化学でもないからな。そのも一つ向うの悪の華みたいなものだ。こうなれば、一切の言葉が無になったと同様だよ。」
云い出せばまたきりもなく話し出し、争い出すのを感じて二人は黙った。千鶴子はその隙を見て一同に散歩をしようとすすめて立った。
「言葉が無になったら歩くに限る。」
と矢代も笑いながら千鶴子の後につづいてカフェーから出ていった。前からの様子で久慈は、昨夜から今朝へかけて二度も千鶴子と会った自分を、まだ矢代は知っていないのだと、問わず語らず勘づいていたが、今はそれを云うべき時期でもないと思い、ただ一人それを知って黙っている千鶴子の巧みな装いに応じつつ、こちらも知らぬげにこうして歩いてゆくのは、秘
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