なくなる教育法が、次第に洋服姿の猫背を多く造っていく日本の社会について。――
しかし、矢代はこのとき、どうして自分がこれほども日本のことを考えつづけるようになったのか、全くそれが不思議であった。何も今さら考えついたことではないにも拘らず、一つ一つ浮き上って来る考えが新たに息を吹き返して胸をゆり動かして来るのだった。マルセーユが見え出したときから、絶えず考えているのは、日本のことばかりと云っても良かった。まるでそれはヨーロッパが近づくに随って、反対に日本が頭の中へ全力を上げて攻めよせて来たかのようであったが、こんなことがこれからもずっと続いてやまないものなら。――
ああ、今のうちに、身の安全な今のうちに日本の婦人と結婚してしまいたいと矢代は呻くように思った。
矢代が黙りつづけている間千鶴子も同じような恰好で欄干に胸をつけたまま黙っていた。それが暫くつづくと何かひと言いえば、今にも自分の胸中を打ちあけてしまいそうな言葉が、するりと流れ出るかと思われる危険さを矢代はだんだん感じて来るのだった。
何も千鶴子を愛しているのではない。日本がいとおしくてならぬだけなのである。――
このよう
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