うしたところが下のホールに高さんという中国人ね、ほら、船の中で二等にいたダンスの上手い中国人がいたじゃないか。あの人と会ったんだよ。真紀子さん、ダンスの味を思い出したと見えて、高さんと踊りに行っちゃってまだ帰って来ないんだ。」
 怒り出すかと思っていた久慈は、大きな欠伸をしかかっていたのも急にやめて笑い出した 
「それじゃ、理窟に合わんじゃないか。」
「どういう理窟だ。」
「僕たちとまだ一度も踊りに行かんじゃないか。そうだ。あの人と踊りに行くの忘れてた。」
 真紀子に久慈は関心があるのかないのか矢代には分り難かったが、これで室に這入るなり真紀子のことを訊ねそうだとも思われたのを、そのまま久慈から云い出すのを今まで矢代は黙ってひかえていたのだった。見ていると、久慈は真紀子を高につれ出されたことをさも残念無念と云いたげな顔にも拘らず、内心それも表情でおどけて見せ矢代の観察を眩まそうとの謀みと受けとれぬこともなかった。
「真紀子さんを僕はひき留めたのは留めたんだが、留める僕の肩を突き飛ばして行っちゃったんだ。久慈さんもいらっしゃれば良かったのにって、残念そうにオペラで云ってたから、行方不明の
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