ら上って来るだろう。そうしたらまた議論だ。人間の過去、現在、未来。――もう沢山だと思っても他人は揺り動かしてゆくだろう。


 久慈は湯から上って来ると矢代の洋服棚をあけ、勝手に寝衣をひっかけて寝台の上へ坐り込み、土産の包の中からジョニウォーカーとサンドウィッチ、それからパンを沢山取り出した。
「ウィスキーは幾ら飲んでもいいが、パンだけはあんまり食っちゃ困るぞ。明日からパリの食い物屋みな一斉にストライキだから、買い込んで来たんだ。」
 久慈は自分が先ず一杯ウィスキーを飲んでから矢代についだ。寝台の上にさし向いで吸取紙を茶餉台代りにしているので、誰か身体を動かす度びにコップが揺れるから、手からコップを放すことが出来ない。それでも二人は久し振りのさし向いで楽しかった。
「明日からは飯も食えなくなるのかね。花のパリもいよいよ餓鬼のパリか。」
 矢代はそう云いつついよいよ自分も地獄か天国か分らぬ恋愛の世界へ入り浸っていくのだと思った。それもも早や避けられぬ、もし千鶴子が何んの理由もなく久慈を殺せと云えば、極端に考えれば、自分はこの親しい久慈さえ殺しかねない陶酔した無茶苦茶な世界である。
「今日
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