ザス料理から一同は外へ出ると、河風にあたろうと云うので少し下ったケエドルセイの通りをセーヌ河に添って歩いた。ここは人通りは誰もなく瓦斯灯だけ鬱蒼とした樹の間から光っていた。真紀子は河岸に並んだ古本屋の閉った緑の箱の間から欄壁に飛び上ろうとする三島を絶えず心配して、「危いわね。落ちついてらっしゃいよ。」と袖を曳くように彼の腕を掴んで歩いた。三島は鳥を追うような恰好で、「ほう、ほう。」と夜空に黒黒と続いたプラターンの大樹を仰いで叫んだと思うと、真紀子の腕から脱け出そうとしてまた引き据えられた。それでも三島は片足を高く上げつつずんずん一人先の方へ進むので、いつの間にか真紀子も一行から放れて先になった。三人は幾らかの酔いも醒めてしまって三島達の後姿を見送っているとき、
「ほう、ほう。」とまた三島は三人の方を振り返って遠くから叫んだ。そのうちに停っていた自動車のドアを開けて中へ消えると、真紀子も後から皆に手招きして乗り込んだ。その途端、自動車は待ちもせずそのまま簡単にずるずる辷り出して橋を渡っていってしまった。
「あッ、これやいかん。」
 と久慈は云うと周章てて停っている別の自動車へ飛び乗った。
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