来た。ノートル・ダムの尖塔の見える薔薇垣の傍のテラスで、羊や鱒を註文してから五人は空腹を柔げると、まだ西洋を見なかったころの印度洋や紅海あたりの船中の食卓を思い、話は楽しくいつまでも尽きそうになかった。
「しかし、何んですよ。これでわたしらは運悪う大風の中へ来たようなものでしたが、さんざんこちらで揺り廻されてほッとして帰ると、今度は日本にここどころじゃない、大風が吹いてるんじゃありませんかな。二・二六というのはわたしらは見なかったけれども、あの話の模様じゃ、ひと通りの風模様じゃありませんぜ。外国人もみな驚いてますね。日本というところはドラゴンが政治を動かしているそうだが、今度は竜が跳ねたのかといいよる。」
沖の云うのに三島はドイツで聞いたのだと云って、まるで戦場のような空気の漲っている東京市中の話をした。嘘か真事か一同には分り難かったが、話半分にしても市民の狼狽した話などを聞かされると、日本に吹きつけている不連続線はヨーロッパどころの風ではなさそうに久慈には思われた。
「僕らはまだ若いから分らないのかもしれないが、どうですか沖さん、青年がこんなに沢山考え事をしなくちゃならぬ時代なんて
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