」、第3水準1−94−21]骨の振動めいたものが脳に響き葡萄酒の廻りも早かった。すると、疲れもアルコールと一緒になくなり、久慈は一層生き生きとして来た。背中をソファーのモロッコ革から起す度びに、体温で革にひっ附いていた服の剥がれる響がびりびりと背に応えた。
「今日はお年寄りに花を持たせますよ。まアこれもやむを得ん。」
と久慈は云って、出て来た鳥の足を掴むと噛みついた。
「何アに、そう元気を無くしたもんでもないさ。パリは年齢なんて無いんだからな。ここには普遍性という論理の皮をひきむく駒ばかり揃ってるから、そいつを使わん手はないのだ。将棊に桂馬という駒があるが、何ぜ、あ奴はあんなに斜に一つ隔いて飛ぶのか、まだ君は知らんのだ。いざというときに、王さまを降参させるのはあ奴だからな。僕は今夜は君に王手飛車をかけてみたのだが、どっちをくれる。さア、返答せい。」
なごやかに笑い合っていたときとて、突如としてその中から突き出された東野の剣先には、一層久慈も返事の仕様がなかった。黙って葡萄酒を東野のコップに注ぎかけようとすると、ぴたりと彼はそのコップの口を抑えてしまった。
「返答だよ。飛車か王か。」
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