らすバンドに掴まり、「何あに、大丈夫。」と云いつつ登ったが、あたりに漲る強い白光に眉のあたりが痛んで来た。
「そう早く登られちゃ嫉妬を感じるね。」
 冗談にまぎらせてそう呟くものの、事実矢代は氷河の尾根を軽軽と乗り越す千鶴子に疲労の様子の少しもないのを見ては、振り向く度びに胸に光る彼女のブローチの金具が腹立たしかった。
「駄目ね、あなたは。」
 これも冗談とはいえ、彼の体力の不足に刻印を打つように矢代には強く感じられた。ときどき一寸ほどの幅の割れ目が稲妻形に氷の面を走っていた。その割れ目にピッケルをひっかけ、遅れつつ呼吸を途切らせてようやく千鶴子に追いついた矢代は、何んとなく今は彼女に負ける楽しみの方が勝ちまさって来るのだった。
「一寸、千鶴子さん、撮りますよ。」
 矢代は豊かな気持ちのままカメラを千鶴子に向けて云った。千鶴子に用意を与えず峰から振り向いた途端、そこをもう矢代はシャッタを切った。負けた良人が勝ち誇った妻の写真を撮るような快感さえ感じ、矢代はひとり快心の微笑を洩らしながら、
「もう撮りましたよ。どうぞ。」
 と云った。千鶴子は体をねじ向け、「あら、」と不平そうな媚態で氷の
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