搾りたての冷たい牛乳を、足をはだかり山を仰いで傾けていると、山も雲も氷河もともに冷たく咽喉へ辷り流れて来るのであった。
 足のぎしぎし鳴る椅子に反り返り矢代は、周囲の高原を見廻してはまた牛乳を飲んだ。青青とした牧草が一面に花筒を揃え氷河の下まで這い連って消えている。後方の樹木の多い山の中腹にはホテルや別荘が建っていたが、人通りは花摘みに行った別荘の娘たちの日に焦げた姿が多かった。
「絵葉書が欲しいんだが。」
 と矢代は茶店の主婦に云ってみた。主婦はしばらく顔色を見ていてから絵葉書を出して来たが、高山植物の葉書に混った中に二枚、角の生えた鹿の傍に卵の殻から生れて来る鹿の子の写真があった。ここの鹿は卵から生れるのであろうかと矢代はまたもびっくりした。景色までここは現世のものではないだけに、流石に生物も自から違うのであろうと思い、これで何よりの土産になったと、疲労も忘れて元気になったが、店を出て駅の方へ歩いて行くと、また眼がくらみそうに疲れを覚えた。眼前に突っ立っているミルクの巨塊のような山を見るまでは、疲れもさして覚えなかった筈だのに、この不思議な山を見て以来、のしかかられるような疲労に襲
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