を揃えたその対うが街の谷らしかった。遠く灯の散ったその谷間に霧がかかり、あたりは薄明りの下に沈んだ港のような和かな色を見せていた。
離れの洋館に這入ると、皆はそこですぐ椅子に掛けようともせず、浅黄の絨氈の上をぶらぶらしながら、廊下からの談をそれぞれ続けた。
壁額にはマチスの近作がかかっていた。それと対応された黒塗の棚の陶器も、潤んだ光沢の宋窯の黒柿の壺だった。卵色の地に、とろりと溶け流れるような濡羽色の壺肌の前で、真紀子は久慈に、平尾男爵と帰って来た航海の日の様子を話したりした。マチスの裸女の背を取り包んだ、棕櫚の葉に似たタロカイヤの強い緑青色を見上げている平尾男爵は、その絵を田辺侯爵に買わせたときの思出を遊部に語りながらも、ときどき自分の名を発音する真紀子の方を振り返った。そして、ともに当時の海上の旅を想う風だった。
「そうそう、相当にこの人の俳句も上手いのがあった。クイン・メリーで君にあてつけた句も、僕はちらちら散見させて貰ったがね。」と男爵は久慈に云ったりした。
「東野さんの先生なら、それや伸びるだろう。」
皮肉のつもりはさらになく、そう久慈が云ったのに、真紀子の唇の黒子が
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