ふざけていた久慈の句も幾らか緊って来たその変化に、
「ふむ。」
 と、矢代はしばらく考え黙っていてから云った。
「そんなら、これはどうかね――白鳥の巣は花に満つ春の森」
「うまいね君は。いつ習ったんだ。」
 と久慈は感心して、「ようし、じゃ、も一つやるぞ。」とまた競い立って考えるのだった。千鶴子は舟ばたで一人腹をかかえて笑っていた。ときどき道路を疾走する自動車の光が森の樹木を貫いて消えていった。一行はオールを軽く動かしていたが、真面目に俳句を考え出したと見えて、誰も空を仰いだり森を見たりして黙っていた。そのうち久慈は、
「よし出来た。今度は傑作だぞ。」と前ぶれして思い出す風に、
「春の夜の月さまざまな水明り。」
 と調子よく読み下した。
「高等学校の歌じゃないか。」
 と矢代はひやかしたので、またボートの中は笑いに満ちた。しかし、久慈だけは一人、「馬鹿を云え。」と云いつつも得意そうにオールを勢い良く動かしていった。
 東野は煙草の灰を水に払い落しながら形の良い白鳥の姿をじっと眺めていた。
「さア、早く上って、サンゼリゼへ行こう。」
 久慈の声に応じて矢代もともにオールに力を入れて漕いだ
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