坂を下るときも、思わず胸を反りたくなる晴れやかな一望の眺めだった。
「あたし、お伊勢さんへお詣りして、良うござんしたわ。鶏もいるんですのね。あそこには。」
 石段を降るとき、ハンドバッグをかかえ込み、黒の手袋をはめながらそう云う千鶴子の自然さが、矢代には、もう諛いも含まぬ声に聞えて頷いた。前から彼は、階段を下るときの、千鶴子の膝の伸び降りて来る表情が、好きだったが、今もその膝が眼につくと、翌日また別れてひとり旅だつ自分の九州行きが怪しまれ、今夜東京から集って来る塩野たちの賑やかさを脱すのも、約束甲斐のない無聊なことと思われるのであった。
「京都を見るのは早くて三日はかかるだろうが、明日からはまた賑やかなことだな。」
「お発ちは明日ね。」
「朝発つと、次の日の今ごろは、お寺詣りをしているころでしょう。」
「もう一日お延ばしにはなれませんのね。」
 あらかじめ寺への通知もしてあることとて、それは出来ないと彼は答えた。そして、千鶴子と二人ぎり会っていられるときの間も、後一時間あまりの昼食までかと思うと、矢代は並んで降りて行く石段の美しい広さも、短かく惜しまれて急がなかった。巻藁の筒から滑らか
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