いて来たころ、梢に縛りつけられたラジオから、ガボットが聞えて来た。
 久慈はさも感じ入ったという風に梢の繁みの中に輝いている電灯を仰いだ。しばらく、一同はオレンジを飲みつつラジオに聴き耽っているとき、
「あら、東野さんいなくなったわ。」
 と千鶴子は云ってあたりを見廻した。
 若葉の垂れ込めた二階の廻廊を通る靴音が淋しく響くだけで、樹の幹の間一面に並んでいる緑の椅子と卓とには一人の客もなく、ただ白い花ばかりがいたずらに散っていた。足もとの砂に混った花の中から捨てた煙草が鮮やかに煙を立てている。
「ああ、もう日本へは帰りたくない。」
 久慈は組んだ両手に頭を反らせてからかい気味に矢代を見た。
「今夜は、まア何を云ったっていいよ。」
 矢代は島の周囲を廻っている紅提灯を眺めながら、ふと日本へ帰れば自分は何をしたら良いだろうと考えた。人の一番望んでいるものを見てしまった空虚さに日日考える力も失われていく疲労を強く感じ、今はこの花の白さに溶け入ってなるままに身を任せてしまいたいと思うのであった。
「ボートが流れるといけないわ。もう行かない。」
 とアンリエットは久慈に注意した。
「あ、そうだ。
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