でしょう。あたくしは書いたり、破ったりいたしましたが、幾度書きましても、涙が出て来てなりませんでした。外国から帰りましてから、いろいろお訓えしていただいたりしたことも、まだ身につかないのかとお怒りになることと存じますが、ぼんやりもののあたくしながらも、お訓え下さったこといつとなく、考え込んだりして来ておりましたのが、今となって、あれもこれもと、一時に思いあたり、吹き襲ってまいりますので、お心のほどのお優しさ偲ばれ、なお悲しくなってまいります。みんなあなたのお家の方方のお許しや、あたくしの家のものの、許しのありました嬉しさに包まれながら、あたくし一人、なおこのような心暗さになりましたこと、何卒お赦し下さいませ。それにつきましても、結婚のことは、あたくしのこんな心ぐらさのままではと思い、拭き清められます日までお待ち下さいますことの我ままお願いいたしたく存じます。
[#地から2字上げ]千鶴子
  耕一郎さま

 矢代は千鶴子の手紙を読み終ってから、この手紙の返事は時間を遅らせず、すぐ出さねばいられぬ焦躁を感じた。穴の中へひとり落ち込み、藻掻き苦しむ様にも見え、何かの弾みで間違いを起しやすい、
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