書の頁をくっている僧侶を見たりする図は、これもここでは物珍らしい風景とは云い難いが、矢代にとっては、これは社会の層の種類ではなく、自分の心中に棲む両極の図会となって自身の心の軽重をじりじり計るのである。
右を見、左を眺めているうちに、千鶴子も何事か胸を打たれるものがあるらしくふと顔を上げると矢代を見た。矢代も千鶴子を見たが、こんなときに視線の合うのは何の意味もなくともはッとなり、急いで避け合うと、そのために一層ない意味までが深まって来るのであった。
こうしているうちにも矢代は、いつの間にか千鶴子の考えていることを夢中になって追い馳けている自分を感じた。彼は汚れた煙があたりを取り包んでいるようにだんだん息苦しくなって来た。
「もうほんとに行きましょう。久慈さん、待ってらしてよ。」
千鶴子は冷たい表情になって立ち上った。矢代も腰を上げてベンチから放れていった。
一団の繁みの胴をコルセットのように締めつけている円形に並んだ鉄のベンチに、人は一人もいなかった。さわさわと立つ風にどこからともなく舞い散って来る落花を仰いでいると、矢代は今は何も忘れ、ただ故郷の空の色を感じて胸は淋しく湿って
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