と矢代に訊ねた。
その質問があまりに突拍子で連絡がなかったため矢代もつい笑い出したまま答えなかった。
「しかし、君たち早かれ遅かれ結婚するんでしょう。そのとき僕はお祝いに、この眉子で詩を贈ろうかと思ってね。水は五十鈴川の取りよせたのがあるからそれで書く、墨は家内の例の明墨を選ぶ。」
それは何より有り難いと思ったが、その途端に東野の今までの硯と墨との説明は、つまり二人の恋愛を意味していたのかと、矢代は初めて悟るのだった。一見こういう風な無意味なことも、いつか意味を持ち出して来ている東野の言動は、日常坐臥の生活そのものが芸と見え、それにはパリ以来久慈や矢代の絶えず悩まされたものだった。しかし、二人は彼に落されてみてから、結局その方が早道だったと気附いたことも再度ならずあった。今もやはりそうだった。
「実はそれでお願いがあるのですよ。」矢代は身動きしてなお前からの笑いをつづけた。すると、東野は矢代のその後の言葉を察したものか「ふむ」と云ったまま、どこか鳥のような両耳の部分で見ている風に、千鶴子と彼との中間の一点を見詰めていた。
「いずれ、もう一度あらためて伺いますが、どうもあなたから云われたんじゃ、少し芸がなさすぎるなア。」と矢代は傍の千鶴子を顧みて笑った。
「それはお芽出とう。しかし、僕の家内は寝ているから出られないよ。代りに早坂に出て貰うが、いいなら、おつとめ励むよ。」
即座に応じてくれた東野に、「結構です、どうぞ。」と矢代は頭を下げたが、いつもこういう場合に自分の出遅れる性癖を見せつけられた思いも強く、暫くは自己嫌悪を覚えあたりがぼっと暗く狭ばまって来るようだった。その間にも東野は仲人のそんな勝手な申し分は、本人は良かろうとも、両家の両親の意志をも尊重すべきが至当と思うから、なおよくこの事は相談の結果を待とうと、親切な保留さえしてくれたりした。そして、最後にまたこうも云って笑った。
「とにかく、諸君は人に気骨を折らせるお二人だよ。それは定評だからね。諸君は知らないだろうが、君たちの立った後というものは、皆がよると触ると君らの噂やら、臆測やらで、議論百出するよ。ひどいのになると、日本へ帰ったら僕に、君らの結婚をぶち壊せ、その必要を認めないというのがいたね。意味が分るか君。」
「どうしてです。」と矢代は訊ねた。
「誰にもやれないことをやったからさ。君らが外国で結婚
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