ないで、破っといていただけませんかしら。」
摘み取った柘植の葉を掌の上に乗せ、極まり悪げに身を左右に廻して、そういう千鶴子を矢代は何んとなく見て笑った。
「どうしてですか。」
「でも、何んだか変だわ。あなたのお悲しみのときなのに、あんなこと書いたりして。」
どんなことかまだ彼には分らなかったが、しかし、どこまで落ち込んで行ったかもしれぬ今日の悲しみの途中で、それを、ふと支えてくれたのは、争われず千鶴子の手紙だったと彼は思った。それも、やがてはそこから再び転がり落ちてゆく自分の悲しみだと思えても、今はまだそれを支えてくれる力が手紙にはあった。
そのうちに竈場の屋根の煙突から煙が昇り始めた。矢代の体も火が入ったように熱く感じた。
「お父さん死んだんだと、どうしても思えないわ。こんなに温いんですもの。」
と幸子が云って、父を棺へ入れようとしなかったときの、あの張りのある反抗を彼は思い出すと、いま昇っている煙など妹に見せずにいて良かったと彼は思った。
煙はだんだん濃くなって来た。すると、矢代の父の横の竈の観音開きになった長い合せ目から、縦に煙が滲み出て来て、天井を伝い広場の方へ乱れかかった。それは見ている間に猛烈な勢いの黒煙に変って来ると、苦しみ怒るもの狂おしい姿に見え、とめどもない凄じい黒さであたり一面に噴き靡いた。建物の周囲に並んでいる常緑樹類の中へも吹き籠った煙は、重なる葉の隙間からも滲み昇り、小枝を絶えず震わせつづけた。
「あの戸は悪くなってるんだね。」と誰かが気の抜けたことを云った。そんな定ったことよりも、皆の考えていたのは他の微妙なことであったから、今さら答えるものは誰もなかった。
常緑樹の中に混っていた白い梅の花が、さも息苦しげに蕚から煙を吐いていた。
竈場の者さえ扉の合せ目を直しに行くものもなく、捨てられたままだったが、やがて出るだけ出てしまったと見え、煙も噴き止んだ。その後、皆のものは今度は建物の竈へ廻された。煙で暴れた竈の組が骨を壺[#「壺」は底本では「壼」]に入れ納めたばかりのところだったので、まだ余燼のほとぼりでむっと顔が熱かった。そこへ手術台のような鉄板が引き出され、その上に父の骨がほのかな曙色を裡に湛えた燠の姿で並んで来た。彼はちょっと手で摘まみたくなったほど、それは燃え尽きる最後の透明な焔の美しさだったが、見るまにそれも素の入った
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