りやんだ雪の中で、矢代の家の中はめまぐるしい多忙さだった。地方から出て来た親戚や父の友人、その他会社関係の悔み客との応接などと彼は眠る暇もなかったが、突然の父の死に見舞われた最初の打撃のためか、彼は、忙しさの中でも虚ろなものを抱きかかえて坐っているような思いがつづいた。殊に母が一層そうだった、妹の幸子は病後のことでもあったから、直接忙しさの中へ立ちよらせぬことにしていたとはいえ、それでも何にかにと母に代ってよく立ち働いた。
葬儀は親戚の敏腕な若い銀行員を委員長に頼んであったので、万事矢代の知らぬ間に順調に進んでいった。勿論、式は父の宗旨の真宗にすることにしたが、彼は自分のときならこれも神式にしたいとひそかに思った。
「わたしはお宅の旦那と、門口でお昼にお目にかかって立噺したばかりですよ。それにその夜亡くなられたとは、もうびっくりして、世の中が恐ろしくなりました。」
勝手口で母にそう云っている酒屋の主人の話も聞えるままに、矢代は告別式へ出る袴をひとり部屋で穿いていた。そこへ女中が悔状の郵便物を沢山揃えて小机の上に置いていった中に、一通千鶴子から来た見覚えの封筒が眼についた。彼はすぐそれを抜き出して懐中に了い込んだ。千鶴子にはまだ父の死を報らせてなかったのに、偶然にも手紙が告別式の前に届いて来たことは、内容はともかく、ともに彼女も父の葬儀に列ってくれる意志のように思われた。紋服の出入の激しい渦の中でも、矢代は何んとなく懐中に一点の温もりを感じ、消え残っている庭の雪を眺めて立っていた。もし父の死が今より遅く来たものなら、あるいは千鶴子も、自分の家の中心になって立ち働かねばいられぬときだった。それも、彼女のために先日買って届いて来たばかりのソファが、応接室で人知れず客を坐らせているだけの、今の勤めであった。
彼には父だけは自慢で千鶴子にひと眼見て貰って置きたいと思った。
間もなく寺から来た僧侶の誦経が始ったので、矢代は家の者や親戚たちと一緒に棺前に並んだ。誦経の声は渋い良い声だった。意味がよく分らなかったが、真宗の教祖の親鸞の思想は、前から彼は好きだった。
よく晴れた暖い日で、いつも来る鶯がこの日も庭に来ていた。父のいた平安な日が今日も外には来ていたのだと、ふと彼は思った。
それにも拘らず、起ることは起っている――そう思うと、その起って来た死も特別なことではなく
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