、話で何んとか揉み消していなければならなかった。
「ありましたとも、日本の古い祠の本体は幣帛ですからね。幣帛という一枚の白紙は、幾ら切っていっても無限に切れて下へ下へと降りてゆく幾何学ですよ。同時にまたあれは日本人の平和な祈りですね。つまり、僕らの国の中心の思想は、そういう宇宙の美しさを信じ示しているんだと思うのです。今の僕らが何も知らずに国家国家と云っていたのは、先祖の考えた宇宙を国家などと小さく翻訳語で云っているので、おかしなものだ。」
「ふむ。」
 と云ったまま槙三はまた黙ってしまった。脇道を振り返ることの出来ない純情な槙三に、一層火力をたてて薪を投げ込むような結果になって来た、このひとときが、何んとなく重くるしく矢代には苦痛だった。
「しかし、それは何も僕らにも無理はないので、日本についてはちっとも知らぬという、無邪気なところがあったのですね。われわれみたいなものに日本なんかそう矢鱈に知られちゃ、実際たまらんというときが、日本のいまというものかもしれないんだから、何も知られない方がむしろ結果が良いので、こっそり隠しているのだ。もう暫くすればきっと分るときが来るんじゃありませんかな。もう暫く、そのもう暫く日本人を眠らせて置くということが、それが日本の先祖の愛情のある工夫なんじゃないかと、僕はこのごろになって思うんです。きっとそうですよ。」
 こう矢代の云っているとき雪の坂路を、両手に手櫃を下げた茶店の老婆が腰を曲げて登って来た。
「御馳走が来ましたよ。」
 矢代は槙三の質問を喰いとめたくて戸口の傍へ立って行った。小屋まで来た老婆はよく磨きのかかった手櫃を二つ矢代に渡した。
「さア、どれから始めるかな。」
 矢代は手櫃の蓋を取って見て、山の料理は出す順序が難しいものだなと思った。こんにゃくの白和、自然薯のとろろ、揚物の生椎茸、それに彼の手料理の鶏の丸焼と杉菜の煮物、こうずらりとテーブルの上へ、皿と一緒に並べてからまた彼は云った。
「まア、それぞれ、お好きなものからめし上ってもらいましょうか。」
「こんなに沢山いただくんですの。珍らしいものばかりね。」
 千鶴子は鉢から各自の皿へ料理の品を取り別けたり、御飯をみなの茶碗に盛ったりした。
「このあたりで、僕の方がお客にさせて貰いますかな。」
 と矢代は云って笑った。
「どうぞ、これだけいただけば、後はたくさんですわ。
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