とを考えては千鶴子に近づいていた報いが、やはり一度はこんな風に来なければならぬのかもしれぬと、矢代も瞑目する思いで静まるばかりだった。
「明日の朝お別れだというのに、こんなになっちゃ困るなア。」
 と矢代は力なげに笑って云ったものの、これは実際に困りはてた疑いだと思い、これを前の白紙に完全に戻すことはもう不可能かもしれぬと思った。千鶴子はテーブルの上の一点から視線を放さず悄れたままだったが、
「あたしの帰るときに、どうしてまたそんなこと仰言ったのかしら。あたし、あなたがいつもそんなこと思ってらっしたのが、何んだかしらいやアな気持ちよ。毎日あんなに楽しかったのに――」
「ですからそこじゃないですか。僕だって同じですよ。」
 こうなっては矢代も、もう思っていることをみんな云うべきときだと覚悟をするのだった。
「僕は前からこんなことを気づかれはしないかと、いつもびくびくしてたんですよ。何も僕とあなたが特に二人にとって、間違いなことをしているとは少しも思っちゃいないですよ。けれども、何んと云ったところで、ここは外国でしょう。ですから、あなたも僕も島流しになった二人みたいで、僕たちの心の通じるのは広くたって三人か四人でしょう。それなら、親切にしたり喧嘩をしたりすることは当然なことで、檻の中の友人のようなものだから、これらのものがそれぞれ日本へ帰って自由な身になったら、島流しになっていたときと同じ心でいるわけはないと思うのです。それも無理に島流しにあっているこんなときを、大切にしているならともかく、それだって、帰れば周囲のものがそのままにさせておくものじゃないんですからね。ですから、それを僕は考えると、もっとあなたを自由にさせておかないと、いつかあなたが僕を恨むようなときが必ず来るんじゃないかと、実はまア、あなたの困るときばかりを想像して、不吉なお話もしたわけです。」
 矢代のこんなことを云う途中に、もう千鶴子の顔は解け流れて来るようににこにことして聞いて来た。
「そんなこと――まア、あなたは何んて用心ぶかい方なんでしょう。あたし、本当に感心してしまったわ。でも、恐ろしい方だわあなたは。」
 初めてあなたを知ったという風に千鶴子は暫くまた黙って考えていてから、
「あたし、とてもあなたのように考えられないわ。あたし、間違っていたと思えないんだけれど、でも、あなたがそんなに思ってら
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