ていた。矢代は、葬列か凱歌かしれぬこんな光景が暫く眼の前を通過しているのを見ている間に、何ぜともなく久慈を突っつきたくなって来たが、それもじっと胸もとで耐えた。
人の肩越しで行進を見られぬ見物の女たちは、ハンドバッグから鏡を出してそれぞれ後ろを向き、鏡面に行進のさまを映し出して眺めていた。
千鶴子や真紀子もそれに倣い鏡を空にかざした。久慈と矢代は爪立ち疲れてふと顔を見合すことがあったが、ぎりぎりとせっぱ詰った云われぬ冷たい表情ですぐ視線を反らせた。その度びに、どちらも、「ふん。」と一瞬相手をせせら笑うような唇の動きを感じ、何か一言いえば生涯の破れになるかと思われる悪寒が、白白しく二人を黙らせつづけるのだった。
そのうち高い建物の上の方から拡声器の革命歌が響きわたって来ると、行進の歩調が揃って来た。しかし、またそれがすぐ国歌に変ってマルセエーズが放じられた。見ている群衆はどちらの歌が空に響きわたっても同じで、誰も声を立てず、すでにこのような訓練が行きとどいた後のように静かだった。
「何か起るのかしら、見ている人、嬉しそうでもないのね。」
と真紀子は不安な顔で久慈に訊ねた。
進行して来る団体の幟が中核をなす赤旗ばかりになって来ると、眼の光りも異様な殺気を帯び、腕組む粒揃いの体の間から勝ち誇った巌乗な睥睨が滲み出て来た。みな誰も紺の背広にネクタイを垂していたから、一見、パリ祭をぶち壊した群れのようには見えなかったが、文化団体とは違い、緊張した弾力が見るから観衆を押し動かして迫った。幟の中にもここのは明らさまにスターリンやレエニン、それからマルクスなどという本家の似顔絵ばかりを押し立てて、もうフランスという国情の匂いなど少しもなかった。
矢代は見ていて、この行列のさまを翻訳して各国へ報らせれば、分り通じるところは、この国情の失われ取り払われた個所ばかりだと思った。こんなに国情のない部分ばかりが他国に通じ、その国の大部分を形づくっている国情という伝統が通じないとすれば、――矢代は、その次ぎに起って来ることは凡そ想像することが出来た。
「これは困る。こうなっちゃ。」と矢代も思わず中田のように云って、ぶらぶら俯向き加減に人垣の後の方をひとりほっつき廻りながら、――もし生きるという生を構成している国情の大部のものが通じ合わぬなら、世の中の秩序を保つための政治は、ただ僅か
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