うかな。」
「そうね。その方があたしはいいと思うわ。」
「ひとりじゃしかし淋しいなア。」
「でも、あなた真紀子さんを愛してらっしたんじゃないの。あんなに。」
「君にまでそう見えたかね。」
と久慈は歎息するように云って後へ長くなった。片手を寝台の上へつき顔だけ久慈を見降ろすようにしている千鶴子の顎が柔く二重にくびれて見える。久慈はもうここから帰りたくないと思えば思うほど、いつの間にか越し難い二人となっている遠慮を感じ、延び出そうとする意志をひき締めひき締め、さも何事でもなさそうに下から千鶴子を仰ぎつづけるのだった。
「まったく考えれば馬鹿馬鹿しいと思うんだが、しかし、君、明日の朝になればきっとまた真紀子さん、僕の部屋へやって来るに定ってるんだからね。そしたらもう逃げられないや。逃げるなら今のうちだ。」
「じゃ、危機一髪ね。」
「そうなんだよ。後数時間の運命だ。」
こう云って久慈は笑いながらも、危機一髪は実はこちらの方かもしれぬとじろりと千鶴子の眼を見上げた。
「でも、そんなこと、そんなに難しいことなのかしら。あたしなら何んでもないことだと思うけれど。」
「そんなに簡単に思えるかね。別に愛してるわけでもないのに、愛してるのと同じような顔ばかりして見せなくちゃならんというんだからな。」
「そんならあなたがいけないんだわ。そんな顔をどうしてなすったの?」
もう同情はやめだと云いたげに千鶴子は久慈から眼を放した。
「だって、そうだよ。そんなに嫌いじゃなくちゃ、お前を嫌いだなんて顔は僕には出来んよ。まア少し好きなら、その程度の親切はしたくなるのが男というものなんだからな――僕は君みたいに、そんなにはっきり出来る勇士じゃないんだ。明日の朝真紀子さんに来られれば、何んとか嘘をついてまた一日親切な顔をしてしまう。だから、君に相談に来たのさ。君の顔でも見れば逃げられるかとふと思ってしまったんだ。」
これだけは云うまいと思っていたことをうっかり口にした久慈は、そんなにすらりと自然な告白が出来ると、急に気持ちの落ちつくのを感じたが、しかし、千鶴子には気附かれていないにちがいないと思うとそれもまた安心になり起き上った。
「むかしのよしみですからね。だって、僕はこんなとき、どこへも行けやしないじゃないか。どこへ行くのだ。」
「どういうことかしら。真紀子さんにあたしからあなたの気持ちお話
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