なくなるのですよ。今はまたそれが一層僕らには難しいときですから、うっかりして日本は良いなど云ってはひどい攻撃を受けます。」
「誰かもそんなことを云ってたな。それだから日本の女は良いと云って、女だけを賞めるのだと。そんなら無事だそうだ。」
矢代の云うのに久慈は真紀子に対い、
「君、聞いた?」
とおどけた風に訊ねた。
「そういうことだけは忘れないわ。」
「女は賞めるに限るとワイルドはいうからね。ね、千鶴子さん。」
と久慈は今まで黙っていた千鶴子を前へ引き出すようにして云った。
「矢代は君のことを賞めたことがないのだが、君も少し賞めさせなくちゃ駄目だな。僕が代りにあなたを賞めてやってるようなものだから、頼りないよ。」
「まだ修養がたりないのね。あたしたち。」
と千鶴子はコーヒーを上げて応酬した。
「修養の不足は矢代の方だ。」
「君だって豪そうなことは云えないぞ。遣唐使も終りのころは堕落したからな。用心をしてくれ。」
久慈は何んとなく矢代がもう今日の自分と真紀子のことを暗に睨んでいるような錯覚に陥りかけ、また視線が自然と寝台の薔薇の方へ向きかかろうとするのだった。
「遣唐使が堕落したのは、そのころの唐が滅亡の前で頽廃していたからだろ。何も遣唐使の方に罪はないよ。」
「ところがそうとばかりは云えないのだ。何んだって唐朝唐朝で、ひどいのは日本の衣物の襟を唐流に右前に流行させたこともあるんだ。新羅の方へいっていた留学生は、これは質実に勉強したらしいんだが、唐の方へ行ったものは堕落したのが多い。子供を造っては次の遣唐使に官費を持って来させたり、身を持ち崩して唐朝の厄介になったり、いろいろしてるよ。円載なんどという坊主は、入唐僧の間でも排斥をくってお負けに帰りに沈没して溺死してる。歴史に現れている人物の名だけでも留学生は百五十一人もあるんだから、この他に三倍はあったにちがいないとして、それなら今のパリへ来るみたいに随分これで堕落して帰ったのもいるんだよ。」と矢代は暗に納めた鋒を出し始めた。
「しかし、そういうのはあながち堕落とはいえないからな。何かそれぞれこれで役に立っているんだ。ただ歴史家が堕落と見てそのように書くから、そういうのは歴史家の堕落かもしれないね。」
「とにかく、現れたままだと堕落もしたのだよ。それも堕落するだろうようにあの当時の長安はなっていて、ただ唐朝の文
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