た真紀子の言葉が、突然謎めいた色となって久慈に響き戻って来るのを、「何をッ。」とまた久慈は微笑しながら頭の髪を引っ張りつづけた。
 東野や矢代が絶えず攻撃して来る独自性のない自分の欠点や痛さを、全く違った角度から今また真紀子に突かれたように感じつつも、彼はまだ降参出来ぬある観念に獅噛みつづけ、寝台の上の真紀子の服をちらりと眺めた。
「俺の考えているものは、女のことでもなければ、自分のことでもない。まして他人のことなんかじゃ無論ない。分らんのはそ奴なんだ。そ奴が良いものか悪いものか、それも知らぬ。しかし、そんな不必要なことを俺に考えさすというのは、それや何んだ。」
 久慈は頭を椅子の背に倚らせて眼を細め、脱けきれぬ念いを追いつめてゆくうちに、ふと浴室から響いて来る水の流れの音に気をとられた。真紀子は湯から出たのだろうか、這入ったのだろうか。――久慈はさきほどちらりと見た真紀子の手首の長い初毛を思い出した。思いにつれて、ある春の日、箱根の浴槽で自分の横に浸った芸者らしい婦人の堂堂とした白い肌が、水面へ浸る毎に、総立ち上った長い初毛のそれぞれの先端からぶつぶつと細かい無数の水泡を浮きのぼらせていた壮観さが、瞬間浴槽の中の真紀子の姿となり代って浮かんで来るのだった。
 久慈はやがて自分の身の危くなるのも知らぬげに、こうして楽しみ深い幸福に身を任せているのも、ここには恐るべき何ものもないからだと思った。しかし、なぜ真紀子の身体が自分をこんなに牽きつけるのであろう。――久慈は昼間あれほど高有明に会おうと決心していたことも、いつの間にかその考えも消えている自分だと思った。けれども、これも真紀子が電話をかけておいたからには、必ず会うだろうとだけは思い、会って何になるのか分らなかったが、会ったそれだけ何事か起るにちがいないとは漠然と感じられた。
「面白いのはそれだ。何が起るか分らんということだけだ。」
 久慈はそんなに思いながら煙草を吹かしているうちに、ふとまた突然、真紀子は高を愛しているのではなかろうかという疑いが起って来るのだった。もし事実そうだったら、あちらを向きこちらを向くどこに信を置くべきか。――しかし、ただ束の間の幸福を逃さぬため、こうして全網を張りわたして待ち伏せている緊張にも、何んとなく投げ出した手のようなのびやかさを感じた。そのとき浴室のドアが開いた。
「すみません
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