が、そこから塩野は、角度を選んで裏口の写真を四五枚も撮った。バルコンの次ぎに大広間が拡がっている。それを横切って階段をまた昇ると初めて三階に出た。一同を喰い止めている鉄の扉のあったのもそこだった。その扉も鍵を合すと無造作に開いたので、そとへ出られるらしい気配のまま歩いているうちに、いつの間にか正面の『諸王の廊下』へ出てしまった。
「何んだ、これや俳句にも写真にもならんじゃないか。」
 と久慈は云って引き返した。すると、また一つ別の鉄の扉に出くわした。これは固く錆びついていたが、力を籠めて押すとぎいぎい重い音をきしませて開いた。扉の向うは通路になっていてもうここからは暗く、石の冷たさがひやりと頬にあたって来た。塩野は、
「そろそろ怪しいぞ。」
 と云いつつ首だけ突き込んでみていてからそっと中に這入った。そこも別段変った所もなかったが、通路の端の所にまた一つ扉があった。塩野は手で撫で擦りながら鍵穴を見つけた。この扉は一番固くて鍵を廻しても廻しても容易に開きそうもなかった。やむなく久慈と二人で肩を揃えうんうんと気張っているうち、ようやく幾らか開いて来た。すると塩野は悲鳴のような声で、「牢屋だ、ここは。」と云ったまま立ちすくんだ。
 一層冷たくなった石壁の上の方に、横二尺縦五寸ほどの細長い窓が三つあるきりで薄暗い。染みつきそうな黴の強い臭いの襲って来る中を三二歩四人が中へ這入り込んだ。暗さで初めは分らなかったが、ふと久慈は足もとの柔らかさに俯向いて見ると、暗灰色の埃りが三寸ばかりの厚さで一面に溜っていた。
「これはどうだ。人知れぬ埃りだな。」と久慈は云った。
 まったく誰からも忘れられてしまって、こうして佗しい年月の埃りを降り積らせていただけの部屋を見ると、急にどきんと胸の中で鳴り進む精神を見る思いで、陰に籠って響く自分の声にも、精霊の巻きつきそうな冷たさを久慈は感じた。歩く毎に死の臭いを吸い込むような無気味さである。前方に扉が見えていても、荒涼としたこの部屋に這入ってはもうそれ以上進む気持ちがなくなった。
「東野さん、どうです。まだだいぶあるらしいが、全部行きますか。」
 と久慈は薄暗がりに浮いている東野の顔を見て訊ねた。
「君たちもう帰ってくれ給え。何んでもこの鍵全部使うと、上まで出られるようになってるんだそうだから、僕だけは一寸行って見て来る。」
 塩野はそう云って次
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