でいいのかな。」
「分ったら台なしだろ。」と東野は云った。
「そうだ。記念に一つ、写真を撮っといてやりなさいよ。」
と久慈は塩野の肩をつついて笑った。
「溜らんね、そう勘が早くちゃ。日本人は芝居が下手い筈だよ。」
塩野は笑いながら繁みの中を、ジョルジュ・サンドの彫像の方へ先に立って近よった。お下げに髪振り分けて肩に垂らしたサンドの前に、小径をへだて、猪首のスタンダアルの横顔の浮彫があった。その二人の像の間で東野は、
「これや、どっちも十九世紀初頭の猛者だったんだが、そんなら僕は一つ俳句を作ろう。」
と云って真面目に俯向きながら考え込む様子だった。久慈も東野に俳句の手ほどきを習ったこととて、ふと思わず釣り込まれて自分も句作する気が動き、そこに立ち停るのだった。
「俳句なの?」
真紀子も面白そうにサンドの彫像をあらためて眺めてから、
「この方、別れの曲でショパンとどっかへいらしたあの方でしょう。」
と東野に訊ねた。
「そうです。そのとき、こっちのスタンダアルはイタリアで領事をやっていたんですよ。」
東野はスタンダアルの彫像の丁度後ろの方に立っているフロオベルの立像の方へ近よっていくと、科学者のように威めしく跳ねた大きな髯を仰ぎつづけた。
東野は十九世紀初頭のフランスの文豪たちの、ずらりと並んだ彫像を眺めていても、別に何んの感動も顕さず、誰より先に公園の出口から出ていって、左側にある公衆便所に這入ってしまった。久慈や塩野が公園の外へ出てから暫くして、東野は便所の中から出て来た。そして、
「一つ出来たぞ。」と明るい笑顔で久慈に云った。
「僕のお師匠さん、便所の中で作るんですかね。どんなんです。」
東野は頭を一寸ひねってから、
「日の光り初夏傾けて照りわたる。」と呟いた。
「何んだそれや、お経じゃないか。」
と久慈は大きな声で笑い出した。
「ノートル・ダムへ行くのなら、お経一つぐらい唱えなさい。」
「それや、たしかにそうだ。僕の写真機は、これやお経の眼玉だからな。」
と塩野は塩野で一寸自分の手擦れて汚くなったイコンタを上げて眺めてみた。
「君にもやっぱり写真機お経に見えるのか。」
と久慈は不用意に塩野に訊ねた。
「定ってるじゃないか。やたらにこのシャッタ切れるかい。」
写真を芸術だと思わぬ久慈の口吻に、塩野はきっと対抗した気構えを見せたが、ノートル・ダ
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