そうな輝きを一つずつ放っていた。矢代は煙草を吸い終ると、戻りの遅い千鶴子の後から部屋を出て探してみた。しかし、彼女はどこにもいなかった。暫く左右の丘の上を探しているうちに、氷河の見える暗い丘の端で、じっとお祈りをしている膝ついた彼女の姿が眼についた。カソリックの千鶴子だとは前から矢代は知っていたが、いま眼の前で祈っている静かなその姿を見ていると、夜空に連なった山山の姿の中に打ち重なり、神厳な寒気に矢代もひき緊められて煙草を捨てた。
千鶴子の祈っている間矢代は空の星を仰いでいた。心は古代に遡ぼる憂愁に満ちて来て、山上に立っている自分の位置もだんだん彼は忘れて来るのであった。
「あら、そんなところにいらしったのね。」
と千鶴子は笑いながら立って矢代の傍へよって来た。昼間わたって来た氷河の星の光りが白く牙を逆立てて流れていた。
次の日、矢代たちがホテルへ戻って来たとき、パリの久慈から矢代あてに手紙が来ていた。
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君がいなくなってから、もう幾日になるか忘れるほどである。とにかく、少し先き廻りをしたかもしれないが、もうインスブルックへ君は出たころであろう。あれ以来、パリには罷業が頻発して来た。これは有史以来の出来事のこととて、われわれには最も興味深い千載一遇の好機に会ったわけだ。これを観察する機会を逃すことは、大きく云えば、歴史の一頂点を見脱す結果になることである。君も出来るなら直ぐこちらへ引き返して来てはどうであろうか。君とはパリ以来論争ばかりで日を費したような羽目になったが、お蔭でこのごろ君との争いもだんだん僕の役に立って来たのを感じる。君と会えばまた前のように争いつづけることと思うけれども、それも今はやむを得ない。それから千鶴子さんが君の後からそちらへ行くような話であったから、もう今ごろは会ったかもしれないが、塩野君その他の人人は何か急用の出来たような話もあり、あまりそちらに長く落ちつかぬよう千鶴子さんに伝えてくれ給え。
僕の方はこのごろ困ったことが起って来た。君も知っているだろうが、ウィーンへ行った真紀子さんが突然僕を頼ってひとりパリへ現われたのだ。僕は真紀子さんの置き所に苦しんだ揚句、同じここのホテルにいるより君のホテルの方が良いと思い、留守中を幸い君の部屋を失礼させて貰っている。真紀子さんは御主人にハンガリヤ人の夫人のあった
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