ろんなお話の末に久慈さんね、真紀子さんと会わせるようなら明日は出ないって。でも、塩野さんはああいう方でしょう。ですから、もう一度真紀子さんと君結婚し直せって、仰言るし、――これで、今夜もし真紀子さんいらっしゃれば、どうなることかしら。」
「真紀子さんなら来るかもしれないなア。それや来るね。」
 しかし、矢代は自分たちのことより他人の身の上を心配する、そのようなもどかしさも、今なお単刀直入に切り出したくはなく、当分はこうしている以外に月日はたたぬのだと思った。そして、それはどういう理由からでもない。これで良いのだった。一番適当な方法を講じて進んでいる以上、現在の成り行きを変えるのも愚かな考えで、その決断も不用だった。次第に押しよせて来る外界の波を避けようとすることが、下らぬ躊躇に見え、自分の目差す針路だけは他人のものではないと思われた。

 剪裁されたばかりの青枝を跨ぎ、寛ぎの出て来る小丘を降りてからもう病葉の散る橡の樹の下へ出ると「新アジヤ」という東野の演題がまた矢代に泛んで来た。夫人を亡くした東野の針路も、定めしその題の示すところに苦心の光鋩を集めたものだろうと察せられたが、東野のみならず、今は人人の念じるところ、それぞれ違った角度からとはいえ、新アジヤに対い沸沸と湧くもののようやく底から逆巻き返して来ている物音が、公園の長蛇の列からも感じられた。
 しかし、矢代は、自分ならむしろ新世界としたがった。東野と大きさを較べるわけではなく、一分の小さな柱の穴から、空の光を望み噴き立ちのぼった、白蟻の群のように秩序ある、繊細柔軟な想いにも似ており、またそれは、いま見た蝋色の子蜂の透明な脚先が、弁にかかったひとときの花底に流れる、いのちのような真新しさであり、新秋のみのりにも通じる敬虔な祈りのようなもの。
 ――彼の希っているのは、そんな新世界の芳情ある題であった。

 日も落ちてから矢代らは、あまり日比谷とへだたらぬ懐石店へ集った。世話係の塩野はもう見えていて、東野の講演の番までそこで夕食を摂り、その後、田辺侯爵の別邸まで皆で行くことになっていた。青い実を垂らした藤棚をくぐって、矢代たちと前後して来た大石につぎ、佐佐や遊部、それから平尾男爵、速水、などの顔まで揃った。皆より少し遅れて来た久慈は、肩幅のある薄羅紗の夏服に、ブルターニュの農民用の紺木綿のワイシャツへ、毛糸の編
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