数学者もおりますが、理論的にこれを認めないとするには、これは非常に厄介なことで、今のところ殆ど不可能といっていいのですよ。けれども、今までの人智というものが、ここで停頓しているからには、何か人間は、大混乱に落ち入る準備をしているようなものじゃないか、といった風な危惧を感じるのです。それは、そうならざるを得ないんですからね。」
槙三のそういう後ろの隅の方で、舞妓たちはより固ったまま指を折り、ひそひそ何か話していた。暖かった部屋の空気が川水に冷えた風に変り、三味線の低い音を流して来る。その対岸の柳の葉の間を灯をつけた電車が辷っていった。
「おい、ひとつ踊を見せてくれ。」
と、由吉は、弟の槙三が一同を場に似合わぬ理窟ばった苦しみに、引き摺りこんだ責任を感じたらしく、突然そう云って舞妓たちの首を覗きこんだ。彼の一言でぱッと座敷の頭は皆あがり、舞妓たちはそれぞれ別れて席についた。浮き立ち上った、大幅の紅い襟の間に挟まった槙三は、とり残された形で、珍らしそうに舞妓の頭を眺めていた。中央から裂けた長い帯を揺り揺り、千鶴子の傍へ立って来た舞妓が、月を仰いでまた指を折った。
「あら、秀菊さん、そんなええ所で作らはる、狡やなア。」
新しく縁へ出て来た妓が、同様にまた並ぶと、「東山、東山、」と呟きながら、これも指を折り始めた。何をするのかと矢代が、その鶴千代という妓に訊ねると、このごろは誰も俳句の勉強を命じられているのだとのことだった。
「みんな俳句作るのか、そいつは油断がならぬぞ。」
由吉も背を延ばして山を仰いだ。正面に月をうけて立った舞妓たちの簪のびらびらが、せせらぐ川波の中で揺れていてまだ宵らしくつづいた川向うの灯が、橋を渡る夥しい人の足を浮きあがらせて賑かだった。
「向う見て寝たる月夜の東山。」と秀菊が云って笑った。
「けったいな俳句やなア。蒲団きてやわ。」と傍の鶴千代が肩をつついた。
「そうかて、顔隠してやすやないの。」
欄干にふれてだらりと垂れた二本の帯の長い裾が、しなやかに打ち合ったり戯れたりした。川水が胴の間を満たし、洗い清める流れで遠くまで月に踊っていた。白牡丹と藤の花のおもい簪に、菊模様の襟を高く立てた、仙鶴という舞妓が槙三の傍にひとり残っていて、舞扇を襟から抜きとり、
「こないだ先生がね、夜桜の句お作りなさいとお云いやしたの、そしたら秀菊さんね、夜桜や隣り
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