が断然一等になっていた。生きながら彼はいま戒壇院を睥睨《へいげい》しているわけである。ここのこの木牌室ほど県下で立派なものはないということだが、私も一度見た。金色|燦爛《さんらん》たる部屋である。

 私のいる家の参右衛門は、本来ならば戒壇院の最高段に位置する家柄である。しかし、彼一代に酒癖のため貧農になり下った結果は、まんまと別家の久左衛門に位置をとって替られ、危く死者の位置まで落しかけたが、村の一同の納金五円が普通のところを、彼は十円出すと云い張り、ようやく中壇で踏みとまらせた。
「いや早や、あのときは大騒動だったのう。」
 と参右衛門が私に云ったりした。
 農家がせっせと汗水たらして働き通す生涯の労働の大部分は、戒壇院の位牌の位置を現在のまま維持するためか、もしくは、自分の代に前より一段とも上にあげたいがためといって良い。仏の前で、先祖の位置を辱しめるということは、この山川の恵みを落すことになるという、伝来の観念は、農家の根柢から脱けるものではない。無限の労働力は、遠く死者から吹きのぼって来ている力で、これを断ち切ると、みな彼らは新しい先祖となり、都会工場の労働者になることだろう
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