う、殴られた殴られた。もうあの参右衛門から、幾ら殴られたかしれん。」二度と私と会うこともなかろうと察しているらしい彼は、過去の忍耐のすべてを呟いてしまいたい口ごもりである。「お前さんも、あの男の傍じゃ気苦労で辛かったでしょうのう。それでも、あの男は人は好い。おれがあの男の別家のくせに、金を儲けたというては、おれを殴るのじゃが、あれは良い男じゃ。」
 久左衛門はこう云ってから今度は、自分の死なした初孫がどんなに利巧だったかということをくどくこぼし始めた。やはり、彼の一番の悲しさは孫を失ったことらしい。次ぎには、私の時間をいつも奪って邪魔したことを謝罪した。
「あんたとお話してると、面白うて面白うて、何んぼう邪魔しようまいと思うてひかえても、面白うてのう、行かずにいると淋しゅうなるのじゃ。おれは、あんな面白いお話は聞いたことがない。」
 彼から一番困らされたことは、たしかに私の方が悪いことを私は認めている。他人の時間を奪う盗人がこの世にいない限り、自分の空間は廻らぬのだ。これについては、私はもっと後で考えることとして彼に酒を注ぎ注ぎお礼を云った。
 十時すぎに二人は寝床を二つ造って貰って寝
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