の云う可からざることで、ひそかに知りたいと思うことは、まだ生じていない農民組合の卵のことであった。いずれこの村にもそれはちかく発生して来ることだけは確実だ。この組合を作る卵の敵とするところのものは、当然地主の多い今夜のここの集りとなることも必然的なことであろう。それならいったい、それはこの平野の中のどのあたりから発生して来るものだろうか。卵はいつでも自分が卵であることを知らずにいるものだが、おそらく、それはあの傘を私らに貸してくれた、正吉青年たちの集りではなかろうか。いずれにしても、農会が開墾に着手するのもその組合のまだ発生しない今のうちである。
「あなたはこの村を御覧になって、どういうことをお感じになりましたか。」
いよいよ来た私への最初の老人の質問だった。直せば直る水質の悪さ、絶景を放置してある道路の悪さ、牧畜への無関心さ、など幾らか私にも感想はあった。
「しかし、今は細かいことは、申し上げられないですね。何ぜかと云いますと、私は農業にくらいばかりじゃなく、現在の農業は素人眼にも、抜き差しならぬ集約状態の飽和点に達しているように見受けられるものですから、一ヵ所を改革すれば、全面的に微妙な変化を及ぼしていくのじゃありませんか。しかし、現状のままのとき先ず最初に用いる農具として新しい機械が一つ入用という場合、これはいずれ必ず起ってくる問題でしょうが、ここではどのような機械なものでしょうかね。」
答えはなかった。私の質問は少し難問すぎるきらいはある。しかし、どんな政府が出現して、どのような革命が来ようとも、遅かれ早かれこの問題だけはさし迫って来ることだ。
「三食を二食にして、中の一食だけ米を抜く、その代りにいま何を作るかということで――」
と、農業技師はまた云った。これが出ると尤もすぎて話はそこで停止する。実際、今はこの技師の云うこと以外、無益なことばかりだからだ。
「私は役場のものですが、私は文化を農村へ注入したいのですよ。それにはどういうことが良いと思われますか。」と、一人の若い剽悍《ひょうかん》な人が訊ねた。
「それは私からもお訊ねしたいことですが、文化の中のどういうことを、ここの人人が一番求めているのか、それも僕の知って置きたいことの一つです。実は何もそんなものを、欲しいとは思っちゃいないのかも知れないのだし、入らざるものを注入して、やたらに都会化させる
前へ
次へ
全111ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング