た梶の感覚は自分の家族の生活がこの東洋の一角にあったのだと知って、不思議な物を見るように妻や子供を手探り戻そうとし始めた。それにしても、何と自分は大きな物を見て来たものだろう。あれが世界というものかと、梶は自分の子供の顔を眺めて初めて世界の実物の大きさにつくづく驚きを感じるのであった。虚無といい、思想というも、みな見て来たあの世界より他にはないのだと思うと、夢うつつのごとくあれこれと思い描いていた今までの世の中が、一瞬にしてかき消えたように思われた。
「いったい、どこを自分はうろうろしているのだろう。この自分の坐っている所は、これゃ何という所だろう」
 梶は浦島太郎のように妻子の前であるにも拘《かかわ》らず、ときどき左右をきょろきょろ見廻した。全く自分の見て来たものも知らずにまだ前と同じ良人《おっと》だと自分を思っている妻の芳江が、このとき何となく梶には憐《あわ》れに見えてならなかった。
「お前はいったい何者だ」
 妻や子供を見ながらこう云う気持ちが起っては、以後の生活の不安も意想外なところに根を張っているものだと、梶は身の周囲を取り包んでいる漠《ばく》とした得体の知れない不伝導体をご
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