争闘し合ふ此れらの山河の上で輝き出した。
Q河口の城の人々は、S河口の城主の久しい圧迫から跳ね起きるときが近づいた。何ぜなら、Q川の支流は完全にS川の支流を掠奪し終へたからである。此のため、S川の本流は、浸蝕された醜いケスタの段階を露はしながら、渇れ果てゝ茫々たる野になつた。かくして、S川の水量を奪つたQ川はひとり益々肥えていつた。それと同時に今迄S河口で行はれた通商は尽くQ河口へ集り出した。Q城の貧しい財政はその河口と共に膨脹した。新らしい生産が始つた。新らしい武器が購入された。さうして、Q城の拡大された新らしい生活力はS城に変つて、逆に彼らを圧迫し始めた。
七
Q城の豪族の勢力は、日に日にその領土を拡張した。Q河口に集る人々の集団は年々に増加した。その村落は市街になり、その市街は港になつた。さうして、S城との小さき争闘は豊富な武力と財力とを以つて続けられた。
S城の市民はその疲弊の原因をS川の枯渇と知つた。彼らは川水の復活を計るため、彼らの財力を専心S川の開鑿に用ひ出した。
Q城の市民は彼らの開鑿を妨害するため、Q川へ流れる上流の支流を堅固な石垣で尽くせき止めた。しかし、S城の市民は忽ち彼らの石垣を突き崩した。
一大戦闘が二城の間に開始された。軍馬の集団が日毎に、川上と川下とで殺戮し合つた。しかし、Q城の嶄新な武力は終にS城を惨虐に圧倒した。
八
Q川がS川の水量を掠奪したと同様に、Q城はS城を掠奪した。S城はQ城の藩屏として、Q城の直属の家臣がその新らしい城主にされた。
此の横逸したQ城の勢力は、S川の流域で新しい生命を産んでいつた。此れらの生命はSとQとの混種となつて汎濫した。従つて彼らS城を守る系統は漸次独特の体系をとつて若々しく発達し始めた。
それと同時に、S城の市民はS川の復活を願ひ出した。彼らはQ城の城主に向つて、しば/\S川の支流の石垣の撤廃を懇願した。しかし、Q城の城主はS城の勢力の擡頭を恐れねばならなかつた。S川が常に枯渇してゐる限り、S城は常にQ城の藩屏として苦しき忠実を守らねばならなかつた。さうして、Q城はその拡充された勢力と共に、次第にS城に対して横暴を極めていつた。
九
日月は経つた。北斗となつたペルセウスは、その天界でひそかにアンドロメダの星のために狙はれてゐた。
下界ではかの横暴なQ城の城主の勢力が、年々S城の市民を苦しめた。S城の市民の反逆心は地にひれ伏しながら鬱屈した。
しかし、Q城の横暴が、S川をせき止めてゐる堅牢な石垣と等しく続いてゐるとき、Q川の横暴もまた続いた。Q川はS川の水源を集めて貪婪になればなるほど、その尨大な浸蝕力は徐々として自身の河口にそれだけ高く堆積物を築いてゐた。此の堆積物はQ城の市民にとつては癌であつた。彼らの誇つた港湾は浅くなつた。海外の船舶は彼らの領土から隣国の港へ外れ始めた。
此の現象は自然とQとSの二城を相殺さすことは明かなことであつた。
十
遂に、Q城の城主はS川の支流を止めた石垣の撤廃を命令した。何ぜなら、Q城はQ川の浸蝕力の運ぶ堆積物を調節しなければならなかつたからである。
S川は復活し始めた。Q川がその河口に高く堆積層のデルタを築いたそれだけ川の水流は緩漫になつてゐた。従つて、S川が再びQ川の水源を奪回するのは容易であつた。それにS川の渇れた川道は前から十分の準備を以つて開鑿せられてあつた。S川は日々の雨量と共に俄然として奔流した。それは恰もS城の市民の鬱屈してゐた反抗心に、着々として豊富な資力を注ぎ込んでゐるのと等しかつた。
S川の流域は豊饒になり出した。S城の市民は黙々として産業の拡張をし始めた。生産物は増加した。通商が勃興した。さうして、彼らは暗黙の中にQ城の支配下から独立しようとして活動した。
十一
QとSとの二川の浸蝕力は均衡を保つて来た。だが、Q川はその河口の堆積層の肌を、漸次に海面から胸のやうに擡げ出した。新らしい海岸平野は、古層の横に、モーバンを描きながら生れて来た。市街はそれらの段階デルタの上へ輝やかしく拡がつた。それと同時に、Q川の浸蝕力は益々緩漫になつて来た。
しかし、S川はそれとは全く反対の状況を示し始めた。S川は曾ては前にその水源をQ川に掠奪されたごとく、今は逆にQ川の分水界の水線を奪ひ出した。浸蝕力は奔騰した。さうして、その河口の古層デルタの水平層へ二輪廻形の累層を新鮮な上着のやうに爽々しく着始めた。しかし、S城の市民は、Q城の市民が、その河口の活動状態を忘れてゐる暇に、絶えずS川の河道の開鑿に注意した。
S城の勢力は勃然と擡頭した。Q城の市民は、自身を亡すよりも、S城を滅亡さす予想の方がより彼らにとつては幸福であつた。
十二
Q城の城主
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