ぬ顔を続けていた。すると、よくよく軽部も腹が立ったと見えてあるとき軽部の使っていた穴ほぎ用のペルスを私が使おうとすると急に見えなくなったので君がいまさきまで使っていたではないかというと、使っていたってなくなるものはなくなるのだ、なければ見附かるまで自分で捜せば良いではないかと軽部はいう。それもそうだと思って、私はペルスを自分で捜し続けたのだがどうしても見附からないのでそこでふと私は軽部のポケットを見るとそこにちゃんとあったので黙って取り出そうとすると、他人のポケットへ無断で手を入れる奴があるかという。他人のポケットはポケットでもこの作業場にいる間は誰のポケットだって同じことだというと、そういう考えを持っている奴だからこそ主人の仕事だって図々しく盗めるのだという。いったい主人の仕事をいつ盗んだか、主人の仕事を手伝うということが主人の仕事を盗むことなら君だって主人の仕事を盗んでいるのではないかといってやると、彼は暫く黙ってぶるぶる唇をふるわせてから急に私にこの家を出ていけと迫り出した。それで私も出るには出るがもう暫く主人の研究が進んでからでも出ないと主人に対してすまないというと、それなら自
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